アパート・マンションの法定点検って?内容と周期、注意点を解説
アパートやマンションは、定期的に法定点検を行う義務が法律で定められています。
物件のオーナーや管理会社は、入居者が安全・快適に暮らしていくために、建物や設備の定期的な法定点検を欠かさず行うことが必要です。
そこで今回は物件を所有するオーナーに向けて、法定点検の種類や周期、自主的に行う任意点検についても詳しく解説していきます。
法定点検の重要性
法定点検とは、そのアパートやマンションに暮らす入居者が安全に暮らしていくために、建物や付帯設備に故障やトラブルがないか確認するものです。
点検を定期的に行うことで、事故や故障を未然に防ぐことができるだけでなく、大きな修繕が起こる前に故障が発見できるため修繕費用を削減できるという、オーナーにとっても大きなメリットがあるのです。
法定点検は、建物や付帯する設備の項目によって、点検を行う周期や内容、関連する法令も様々であり、物件のオーナーや管理を委託された管理会社が法定点検を怠った場合、罰金などのペナルティが発生します。
さらに点検の結果を管轄の役所へ報告することも義務付けられており、報告しなかったことで罰則を受けることもあります。
法定点検は、点検の内容によって、資格を所有している人でないと点検を行うことはできません。
それぞれの点検箇所によって専門家に依頼する必要がありますが、管理を委託している場合、管理会社がそれぞれ点検を行う会社に依頼をしてくれるため、オーナー自身で依頼をする必要はありません。
しかし、自主管理のオーナーは、すべての法定点検の内容に対して、各専門業者へ点検を依頼し管理しなければなりません。
点検の内容によって、頻度や内容も異なるため、漏れのないように管理を行うことが重要です。
任意点検にはどんなものがある?
義務付けられている法定点検のほかに、オーナーや管理会社が自主的に行う「任意点検」という点検もあります。
アパートやマンションに付帯している設備の内容によって異なりますが、自動ドアや防犯カメラ、宅配ボックスなどの点検が該当します。
法律で定められていなくても、そこに暮らす入居者が生活しやすいように管理をするのがオーナーの役目ですので、定期的な点検は行うようにしましょう。
故障や不具合を早めに発見することで、入居者の満足度も向上し、長期入居へとつながっていくかもしれません。
法定点検の種類と行う頻度
アパート・マンションの法定点検では、主に7つの点検項目が義務付けられています。
7つの点検項目の頻度、関連する法令一覧はこちら。
点検名称 | 点検周期 | 関連する法令 |
特殊建築物等定期調査 | 6か月~3年の間で特定行政庁が定める時期 | 建築基準法 |
建築設備定期検査 | 6か月~1年の間で特定行政庁が定める時期 | 建築基準法 |
昇降機(エレベーター)定期検査 | 6か月~1年の間で特定行政庁が定める時期 | 建築基準法 |
消防用設備等点検 | 機器点検:6か月に1回 | 消防法 |
総合点検:1年に1回 | ||
専用水道定期水質検査 | 水質検査:月1回 | 水道法 |
消毒の残留効果等に関する検査:1日1回 | ||
簡易専用水道管理状況検査 | 水質検査:1年以内ごとに1回 | 水道法 |
水槽の掃除:1年以内ごとに1回 | ||
自家用電気工作物定期点検 | 月次点検:月1回 | 電気事業法 |
年次点検:1年に1回 |
出典:国土交通省 – マンション管理標準指針 コメント 四 建物・設備の維持管理(114)
それぞれの法定点検の内容について解説していきます。
特殊建築物等定期調査
共同住宅や学校、病院、百貨店などの不特定多数が利用する建築物が特殊建築物と指定され、一般の建築物よりも制限が課される建築物とされています。
このような特殊建築物は、建物全体の劣化や防災上の安全対策などを幅広く調査することを建築基準法で定められています。
調査は、特殊建築物等調査員や一級建築士、二級建築士の資格を有していている者が行う必要があり、調査対象は以下の5項目です。
- 敷地及び地盤
- 建築物の外部
- 屋上及び屋根
- 建築物の内部
- 避難施設など
これらの項目を調査することで、建物の劣化状況を定期的に把握できるため、大規模修繕工事の計画に役立てることができます。
また、特殊建築物定期調査の対象建物は、自治体により異なるため、法定点検対象にならない場合もあります。
ご自身の所有している物件が対象となるかどうかは、各自治体へ確認しましょう。
建築設備定期検査
建築設備定期検査は、特殊建築物定期調査と同様に、共同住宅や学校などの不特定多数の人が利用する建築物が対象となります。
これらの建築物の設備を1年に1回、調査・検査し、その結果を特定行政庁に報告しなければいけません。
この調査も、建築設備検査資格者や一級建築士、二級建築士の資格を有している者が行う必要があります。
検査対象の設備は以下の4項目です。
- 換気設備(自然換気設備を除く)
- 排煙設備(排煙機または送風機を有するもの)
- 非常用の照明設備
- 給水設備及び排水設備(給水タンクなどを設けるもの)
また、この検査も自治体によって対象建物に該当するかどうか異なるため、検査が必要な建物かどうか、各自治体に確認をしましょう。
昇降機(エレベーター)定期検査
建物内にエレベーターがある物件は、エレベーターの定期点検を1年ごとに行う必要があります。
エレベーター定期検査の内容は、点検・給油・清掃・調整・消耗品の交換などがあります。
調査が完了したら特定行政庁に報告を行いますが、万が一報告を怠った場合には、100万円以下の罰金に課せられる場合がありますので、必ず報告を忘れないようにしましょう。
エレベーターは故障すると、人命に関わる危険性が高いため、入念な検査を行うことが重要です。
消防用設備等点検
消防用設備点検には、「機器点検」と「総合点検」の2種類があり、点検周期も異なります。
「機器点検」は、消火器やスプリンクラーなどの消火設備、自動火災報知器や非常ベルなどの警報設備の機器の点検を6か月に1回行います。
「総合点検」は、実際に消防設備や警報設備を作動させて問題なく使用・作動するかどうかを総合的に確認する点検で、1年に1回行います。
実際に火災報知器を鳴らしたり、避難はしごを使用したりするため、入居者へ事前の周知は忘れずに行いましょう。
消防用設備点検の検査項目は下記の5つです。
- 消火設備(例:消火器)
- 警報設備(例:火災報知器)
- 避難設備(例:避難はしご)
- 消防用水
- 消火活動に必要な設備(例;消火用ホース)
こちらの点検は、消防設備士または消防設備点検資格者が行います。
火災や災害の際に、確実に使用・作動するよう、入念な点検が必要です。
専用水道定期水質検査
専用水道とは、受水槽が100m3以上、居住人口が101人以上、口径25ミリメートル以上の導管の全長が1500メートル超のものを指します。
マンションに専用水道が使用されている場合は、専用水道定期水質検査を行い、水が水質基準に適合しているかを確認することが義務付けられています。
- 消毒の残留効果等に関する検査:毎日
- 給水栓における水質検査:1か月に1回
- 受水槽清掃:1年に1回
専用水道が設置されているような大きなマンションは、毎日行わなければならない検査もあるためしっかりと確認を行いましょう。
簡易専用水道管理状況検査
簡易専用水道とは、水道局から供給された水を10m3を超える受水槽に受け、ポンプを利用して各居室に給水する方式のことです。
この方式をとっているアパート・マンションは、水質調査と水槽の掃除を1年以内ごとに1回実施することが必要です。
- 外観検査:受水槽が設置されている場所の検査
- 水質検査:給水栓の水の臭いや味、残留塩素を検査
- 書類検査:水槽の清掃記録の確認
こちらの検査は、地方公共団体の機関または厚生労働大臣の登録を受けた簡易専用水道検査機関に依頼をしなければならず、検査を怠った場合は、100万円以下の罰金に課せられる可能性があるため注意しましょう。
自家用電気工作物定期点検
自家用電気工作物とは、ビルなどの変電設備、分電盤、屋内外配線等をいいます。
これらを、月1回の「月次点検」と年1回の「年次点検」で、定期的に点検を行います。
月次点検では、下記項目の点検を行います。
- 区分開閉機などの外観を目視で点検
- 電流が漏洩していないか確認
- 電圧・電流の計測
- 分電盤の温度測定
- 非常用発電機の動作確認
年次点検では、下記項目の点検を行うために、安全のため建物をすべて停電させる必要があります。
- 区分開閉機などの外観を目視で点検
- 絶縁抵抗の計測
- 異常が生じた際に電気系統から事故箇所を切り離せるかの確認
- 蓄電設備の電圧・比重・温度の計測
- 非常用発電機の動作確認
法定点検をスムーズに行うために
法定点検は種類が多く、該当建物かどうかや周期も様々であり、オーナーにとってはネックなポイントかもしれません。
しかし、法定点検を怠ることで罰則が生じるだけでなく、入居者が安全に生活できなくなってしまう可能性があります。
物件を所有するオーナーにとって、入居者の生活を守ることも重要な役割の一つです。
法定点検を行う際には、入居者の協力が必要な点検もいくつかあります。
例えば、消防点検の総合点検をする場合は、居室内の火災報知器の作動の確認が必要なため、入居者の立ち会いが必要となります。
日程が決まり次第、早めに入居者に通知を行うことが重要となります。
また、エレベーターの点検の際にも、事前の告知が重要です。
大きなマンションであれば、エレベーターが使えないだけでも、入居者からしたら大きな問題です。
クレームやトラブルに繋がらないよう、こちらもなるべく早めの段階で入居者にお知らせを行いましょう。
法定点検や任意点検をしっかりと行うことで、入居者の安全性や暮らしやすさが担保され、長期入居へとつながるかもしれません。
入居者が安心して暮らせるよう、オーナーとして法定点検について詳しく理解し実施していきましょう。